チームで勝つための組織作りとは【現場での実践編】

2024年3月26日 | リーダーシップ チームで勝つための組織作りとは【現場での実践編】

「指揮官」や「司令塔」を意味するリーダーは、ややもすると「リーダーの器が備わっている人」や「カリスマ性がある人」のようなイメージ像で捉えられがちです。

しかし企業組織で求められるリーダーシップとは、決して潜在能力や雰囲気ではなく具体的な行動で発揮することが求められます。

リーダーシップを備わっている・備わっていないというポテンシャルレベルの観点で考えると、足が止まってしまいます。一方、優れたリーダーに共通する行動特性にまでブレイクダウンすれば、どんな人でも行動改善の努力が可能です。

今回は「現場で実践できるリーダーシップ」をメインテーマにし、当記事では組織作りに焦点をあてて、望ましいリーダーシップ行動を紹介していきます。

 

right-icon01 組織作りの出発点はビジョンと目標を明確にすること

ビジョンと目標を考える際には、リーダーシップとマネジメントの違いを認識する必要があります。

アメリカの経営学者のウォーレン・ベニスが1985年に提唱したリーダーシップ理論で、以下のような記述があります。

”Leaders are people who do the right thing, managers are people who do things right”
(訳:リーダーは正しいことを行う、マネジャーは正しく行う)

つまり、リーダーの役割は何をすることが正しいのかを決め、マネジャーは決められたことを正しく行うように管理することであると定義したのです。

これを企業活動に落とし込むと、リーダーの役割は組織の将来像であるビジョンを決定することで、マネジャーの役割は決められたビジョンに従いルールを作ってメンバーを管理することといえます。

目標達成のためにチームメンバーの心を一つにまとめるリーダーシップと、目標達成のために工程管理するマネジメントは、いわば車の両輪の関係です。大きく旗を振り、その旗に行き着くまでの行程を描くようなものでしょう。

ここからはその二つの役割について解説を進めていきます。

ビジョンを共有する

ビジョンは、組織が目指す将来像や方向性を示すことです。そのため、ビジョンには組織のあり方や存在意義・目的が明確に示されていることが重要です。

また、ビジョンには組織の独自性を示す要素が必要となります。ビジョンは、組織独自の強みや文化、価値観、信念、方向性を示すことで、組織のアイデンティティを確立する役割があるからです。

さらに組織のリーダーがビジョンを示す際は、熱意や信念を提示することで、組織メンバーのコミットメントを引き出したり感動を与えたりすることも重要です。

感情レベルでメンバーがビジョンに共鳴することで、ビジョンを実現するためのモチベーションを高めることができるからです。

ビジョンは数値目標とは異なる性質を持つため、より大きな目的を持つことも必要でしょう。

メンバーにとって、現状の自分自身や日々の仕事よりも大きな世界観を持つことで、持てるポテンシャル以上の力を発揮しようと奮起する効果があります。

このようなビジョンを明確に指し示すことを「ビジョナリー・リーダーシップ」といいます。

ビジョナリーリーダーシップという言葉が注目を浴びたのは1980年代のアメリカでした。当時のアメリカは貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」に苦しみました。こうした非常時において、変革のビジョンを持ったリーダーが時代を切り拓いていったのです。

先々の予測が見通しにくいVUCAの時代においても、平時とは異なるビジョンを掲げるリーダーの重要性が増しているといえるでしょう。

 

組織やチームの方向性をクリアな目標で設定する

組織ビジョンを示したあとは、ビジョンが実現できた状態を「目標」、さらにそこにたどり着くための「プロセス」を示す必要があります。

組織の数値目標をそのままメンバーにおろすだけでは、リーダーシップともマネジメントとも見なせません。

ここで重要となるのが、以下の3つの指標です。

  • KGI(Key Goal Indicator)=最終的な目標
  • CFG(Critical Success Factor)=最重要プロセス
  • KPI(Key Performance Indicator)=最重要プロセスの目標数値

例えば営業組織の場合、KGIは「売上げ目標」などとなるでしょう。売上げ目標達成のための最重要プロセスとしてCFGには「新規顧客の開拓」を掲げたとします。新規顧客の開拓が進んでいるかどうかを測るKPI指標は「新規のアプローチ件数」や「新規顧客へのプレゼンテーション件数」や「新規顧客向けの案内資料の制作」などが考えられます。

目標を掲げるだけでは、目標の進捗が芳しくない場合、どこに立ち戻ればいいか分かりません。その点CFGやKPIがあれば、メンバーの行動レベルでチューニングができやすくなります。

right-icon02メンバーのモチベーションとエンゲージメントを向上させる

ビジョンや目標にいくらメンバーが共鳴していたとしても、日々の仕事遂行上で常に前向きな状態を保てるとは限りません。

期初はやる気に溢れていたメンバーも、期中の中だるみのような状態に陥ることもあるでしょうし、思うように成果が出ない場合はネガティブな感情に襲われることもあるでしょう。

ここからは主にビジョンや目標を共有したあと、期中に発揮すべきリーダーシップについて紹介していきます。

 

メンバーモチベーションを高める施策を実行する

モチベーションリソースというやる気の源泉は、個々人によって異なります。

誰かと協働して成果を出すことに喜びを見出すメンバーもいれば、独力で成果にたどり着くことに価値を見出すメンバーもいるでしょう。

優れたリーダーはメンバー一人ひとりのモチベーションリソースを把握することから始めます。期中では個々人のモチベーションの状態を把握し、メンバーのモチベーションリソースに応じた手を打ちます。

メンバーのモチベーションを上げるためには、本人の「らしさ」を受容することは大前提になりますが、時にタフ・エンパシー(厳しい思いやり)も必要です。

中途半端に温情をかけて失敗を招いてしまうと、リーダーへの信頼は失墜します。日頃から信頼があれば、メンバーの成長を促すために苦言を呈することを臆さないようにしましょう。

また、リーダー自身がモチベーションの高い存在であることも必要条件です。やる気は伝播していくものなので、士気が低下しているリーダーに旗を振られても、メンバーは奮起しないでしょう。

 

メンバーの成長を促進し、エンゲージメントを向上させる

メンバー一人ひとりに合わせたモチベーション管理や課題克服施策を講じることで、組織へのエンゲージメントを高めることにもつながります。

VUCA の時代と呼ばれるような変化が早くて予想不可能な状況の中では、リーダーが全ての情報を把握して適確な指示を出せないこともあるでしょう。

そのためメンバー一人ひとりが成長し、組織のために力を還元するようなエンパワーリーダーシップが求められます。

エンパワーメントリーダーシップとは、一人ひとりの中にある力が引き出され、チームとしての集合知が創発される環境を作っていくことです。

ただ、この状態を作り出すには、それなりの時間とエネルギーが必要になります。目の前の課題をできる限り早く解決することを優先するのであれば、自分で動いた方が早いということもあるでしょう。

しかし、その繰り返しでは、人は育たなくなります。問題の解決ばかりにとらわれるのではなく、日々どれだけ他者をエンパワーしているのかという視座が、エンパワーメントリーダーシップでは大切になります。

成長を促してくれる組織に属しているメンバーは組織エンゲージメントが高まり、その結果自分に後輩ができた時も同じようなサポートをする好循環が回り出すでしょう。



right-icon03社内外へのプレゼンスと影響力を発揮する

組織作りのためのリーダーシップの最後の観点は、自部門以外への接点を意識することです。

自部門内の視点しか持たないリーダーが率いる組織は、得てして脆弱な状態になりがちです。会社で仕事をしている以上、関連する他部署あるいは社外と健全に接することは、リーダーの大きな役割といえるでしょう。

ここからは社内外への働きかけをする上で重要となる、二つの観点を紹介します。

 

他部門との関係を構築し、影響力を持つ

企業全体の観点では、自部門だけうまく行っているだけでは企業業績が上がるとは限りません。

優れたリーダーはより上位で広義な視座を持ち、その視座のなかで自部署がどのような価値発揮を担うべきかを捉えます。

例えば「他部署調整」は組織で動いている以上、頻繁に発生します。

浮いたボールの拾い先、メンバーの異動調整、など組織間調整が頓挫することで、他部署を軋轢が生まれるケースは珍しくはないでしょう。

調整が頓挫する要因の一つが、リーダーが自部署視点しか持っていないことです。優れたリーダーは経営視点を持ち、たとえ自部署の負担が増えたとしても企業成長のために適切な判断をします。

さらには他部署の状況も熟知しているため、押し付け合いではなく健全な話し合いもすることができます。

優れたリーダーは、組織間のリエゾン(「つなぎ」「橋渡し」)であるべきです。

「リエゾン」はフランス語で、前後の単語の音がつながって発音されることを意味します。ビジネスでは産学連携や医療や特許申請の現場でリエゾンは活躍してきました。

グローバル化や消費者ニーズの多様化が進む現代においては、さまざまな組織間の連携を円滑に進めるリエゾン型リーダーの重要性は高まっていくでしょう。

 

インフルエンサーとして組織内外での信頼と尊敬を獲得する

リーダーが組織内外に対して広告塔のような働きかけをして、インフルエンサーとしての認知がある場合、組織は動きやすい状態となります。

特に「あのリーダーの組織では成長が加速する」や「あのリーダーの組織は刺激的な仕事を生み出す」のような印象がつくことで、メンバーの組織へのエンゲージメントはより一層手厚くなるでしょう。

例えば営業のA部署とB部署は同じミッション・同じ組織目標を担っていたとします。

A部署のリーダーは寡黙なうえに、結果で全てを判断してもらおうというスタンスです。一方、B部署のリーダーは目標達成のために自部署でどんな工夫をしているかというナレッジや、その中でメンバーがどれほど成長したかについて周囲に開示していたとします。

このようなプロセスに着目し、自部署ならではの取り組みを組織内外に共有するリーダーは結束力が高まりやすいでしょう。

アピールするだけでなく、他部署のナレッジも自部署に還元するため、組織の垣根を越えた成長も叶いやすくなります。

メンバー個々人が自走できるようになれば、リーダー不在の際でもメンバーが自主的に判断や活動を展開する「ティール組織」にも近づくでしょう。

 

right-icon04まとめ

リーダーが組織に与える影響を考える時には、イソップ寓話として広まる『3人のレンガ職人』の話が参考になるでしょう。

旅人が3人のレンガ職人に「何をしているのか?」と聞いたところ、1人目は「レンガを積んでいる」と答え、2人目は「壁を作っている」と答え、3人目は「歴史に残る大聖堂を造っている」と答えました。

リーダーが仕事の意味や価値をどのように伝えるかで、レンガ職人(メンバー)の仕事のゴールが変わってくるのです。

ただし現実としては本質的なゴールを共有するだけではなく、レンガの積み方指導や壁作りのスケジュール管理の必要もあるでしょう。

このように、リーダーが組織に与える影響について全方位な視界を持ちながら、状況に応じてメンバーに伝えるべき優先順位を判断していく必要があるといえます。