「現場で実践できるリーダーシップ」をメインテーマにし、リーダーを素養や資質ではなく、望ましい行動として捉える当連載。 前回記事「リーダーシップ発揮を加速させる組織的なサポートとは 」では、企業側が行うべきサポート体制についてお伝えしました。
しかし企業としてのサポート体制が整っていたとしても、実際の現場ではリーダーシップを発揮できる人と、発揮しにくい人に分かれてしまう現実もあります。
この差は、リーダーシップを発揮する本人側の事情によるものが大きいと考えられます。
見方を変えれば、リーダーシップを発揮してほしい本人に何を求めるのかという理解促進や、何を努力すべきかの行動促進が曖昧になっているという、企業や人事側の努力不足ともいえます。
今回は、現場でリーダーシップを発揮できるために、リーダー本人に求めたい点について紹介します。
リーダーご本人はもちろんのこと、現場のリーダーを支援したいとお考えの経営・人事サイドの方も参考にしていただければ幸いです。
01 現場主導で展開してもらう心構えや行動とは
多くの企業では、自社のマネジメント層には「このようにあるべし」という心構えや、そのための行動指針は示しているかと思います。
一方、リーダーについては「自社で求めたいリーダー像」が曖昧になっていることが多く、リーダーシップの発揮は現場のリーダー任せにしている企業が少なくありません。
ただし、組織を管理するマネジメントと組織をリードするリーダーでは、求められるものが異なる点には注意が必要でしょう。
ここからは、ある程度業種や職種をまたいでリーダーとして求めたい汎用的な4つの要素を紹介します。
- めざす姿を体現して、メンバーに語る
- メンバーとは仕事だけでなく人としてつながる
- 行動に移すスピードを上げる
- フィードバックを重視し、PDCAの再現性を上げる
「自社で求めたいリーダー像」と照らし合わせながらお読みいただき、適宜アレンジをしていただければ幸いです。
企業ミッション・ビジョンに基づく企業文化を体現する
別記事で紹介した、野田智義先生と金井壽宏先生の共著『リーダーシップの旅』では、リーダーは生まれ持った才能でリーダーになるわけではなく、また、リーダーになろうと思ってなるわけではないと述べています。
「リーダーが旅に出るのではなく、旅に出るからリーダーになる」と書では紹介されています。その旅のプロセスで「リード・ザ・セルフ→リード・ザ・ピープル→リード・ザ・ソサエティ」と進化していくプロセスがあるのです。
この旅に出る動機そのものが、リーダーがリーダーたる所以ともいえます。
つまり、企業内におけるリーダーに置き換えると、自社のミッション・ビジョン・パーパスレベルを自分ごととして捉え、自らがその体現者である状態といえるでしょう。
例えば、「多様性が受容される社会」をミッションやビジョンに掲げる企業であれば、その組織リーダーはメンバーの個性を誰よりも理解し、一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出そうとするでしょう。
さらには、ミッション実現のために組織内で足りない価値観を敏感に捉え、社内外からその価値観を補強できる人材を見つけ、組織文化レベルでコントロールすることも考えられます。
このように自ら体現者であることはもちろんのこと、行動の背景をメンバーに伝えることもリーダーには必要です。
前述の例では「なぜ新しい人材が必要なのか」の背景を語ることは、企業ビジョンやミッションにまで紐付いて語られることになるため、自ずとメンバーに企業ビジョン・ミッションを浸透させることにもつながります。
リーダーに必要なことは、決して該当業務のテクニカルな面ばかりではありません。
それよりも、すべての言動の源泉を企業ビジョン・ミッションレベルに置き、繰り返しメンバーに語ることが求められるのです。
メンバーとのコミュニケーションを強固にする
リーダーが現場で生きたリーダーシップを開発するためには、1on1ミーティングに代表される「こまめで・ライトで」メンバーの立場に立ったコミュニケーションが重要となります。
特にリモートワークなどが普及し、働き方がメンバー間で多様化する現代においては、仕事のつながりだけではなく、人としてのつながりも重要となります。
したがって、優れたリーダーは1on1を仕事を円滑に進めるためのコミュニケーションだけでなく、メンバーとの精神的なつながりを強化する機会とも捉えています。
例えば、今後挑戦したい仕事を聞くだけでなく、そのメンバーがどのようなライフプランを描いているかまでヒアリングし、メンバーのライフまで含めた上で仕事の挑戦機会を用意するように努めます。
なお、1on1が多くの企業で導入された理由の一つに「社員の離職防止」が挙げられます。
離職を防ぐには、単に接触機会が増やすだけでなく、接触を通じてメンバーを深く・広く理解することにあるといえます。
自分のライフプランまで把握した上で、仕事の挑戦機会を用意するリーダーの存在は、企業の競争力に直結します。
このようなリーダーがいれば、仮にメンバーが競合他社から有利な労働条件を提示されたとしても、一度は思いとどまる確率が上がるでしょう。
課題解決に向け、素早く行動する習慣をつける
変化が激しく先々の予想が見通しにくいVUCAの時代においては、‟Speed is Power”の方式が成り立ちやすいでしょう。
システム開発においては、必要な手順・プロセスを経るウォーターフォール型で仕事を進めていては、次々と発生する変化へのキャッチアップが遅れてしまいます。
どんどんチーム単位に権限委譲し、機能ごとにすばやく意思決定するアジャイル型のプロジェクト進行が、いまの時代には求められています。
リーダーの行動にも、同様のスピードが求められます。
リーダーが確実な意思決定をするために、根拠集めを延々としていたら、決定を待つメンバーの行動も遅延していきます。
ソフトバンク社の孫正義氏も、意思決定の際は「7割思考」を推奨しているといいます。
孫氏は経営方針で「孫の二乗の兵法」を掲げています。この言葉には「大事なところだけ残して、他を除き去る」という意味が含まれています。
決断するとは「決めて、断つ」です。A案B案があるときには、どちらかを採って、どちらかを断ち切らなければなりません。
さらに「もしかしたら選択を間違えるかもしれない」という恐怖心もリーダーは断ち切る必要があります。つまり、意思決定とは「断つ」覚悟を決めることなのです。
今の時代「決められないリーダー」ほど、周囲からの落胆を招きやすい要素はないといえます。
意思決定の精度を高めるために、情報収集や市場調査などでメンバーに本来業務以外の負担を過重にかける結果を招くからです。
現代のリーダーは、意思決定の精度にこだわりすぎると、かえって「よい意思決定」から遠ざかるというパラドックスを乗り越える必要があるといえるでしょう。
フィードバックを重視し、確度の高いPDCAサイクルを回す
前章で「7割見えたら行動」というスピードの重要性について言及しましたが、当然のことながら、なかには間違える意思決定もあるでしょう。
間違いという結果も含めて、リーダーは一連のサイクルから学び取る必要があります。
つまり「間違い」を織り込んだうえで、「70点の意思決定」を最速で行うことが、中長期目線で、精度が高い意思決定をする近道なのです。
そもそも、ビジネスにおいて100%の成功が保証された意思決定などありえません。 意思決定とは、未来に対して賭けることであるうえに、未来のことは誰にもわかりません。
どんなに情報を集めて、市場調査をやったところで「100%こうなる」と予測することは不可能なのです。 その前提を考慮すると「70点の意思決定」で、とにかく実行する重要性がご理解いただけるのではないでしょうか。
PDCAを回しながら軌道修正を繰り返すことこそが、最速で「正解」にたどり着く方法なのです。
「間違える」ことで、可能性の一つが消えたわけなので、成功に向けて照準が絞られたと捉えるべきといえます。
このフィードバックサイクルを念頭に置き、一つの意思決定が「失敗」に終わっても、未来に向けて「同じ失敗をしないためにどうすれば良いか」という貴重な経験をしたと捉えましょう。
また、リーダーとして失敗したときに重要なのは、潔く「自分の判断ミス」だと明言することです。 メンバーの提案に「OK」という意思決定を下した場合であっても、意思決定に責任を持つのはリーダーになるため、決してメンバーの責任を問うような言動をとってはなりません。
何よりも重要なのは、あくまでも目標を達成するために、メンバーを励ましながら、自ら先頭を切って前進を続けることです。 今回の失敗から学ぶべきことを明確にしたうえで、より成功確率の高い新しい企画をメンバーとともに考える。
そして新たな意思決定をして、その決定事項を徹底してやり抜く。 このサイクルを通じて、組織として成功の再現性を高める道に、メンバーを導いていくことが真のリーダーの姿といえるでしょう。
02まとめ
リーダーとしての「旅」を歩み始めることは、決断や責任もつきまとうため、恐怖を感じる場面もあるでしょう。
その恐怖を乗り越えるためには、メンバーとの絆が不可欠なのはもちろんのこと、何より「こちらの道に進むべきだ」というリーダーの折れないビジョンが必要となります。
一度や二度の意思決定の失敗は、強いリーダーになるための肥料のようなものです。
そのような観点で、すべての経験から貪欲に学びとる姿勢のリーダーであれば、きっとその旅路には多くのメンバーがついていくでしょう。
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