「人事」の真価をどう見出すか ~将来的な企業成長を左右する人事のあり方とは~

2025/01/20 | 戦略人事 「人事」の真価をどう見出すか ~将来的な企業成長を左右する人事のあり方とは~

「人事」という仕事について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
この問いは、現職人事の方であっても、人事部門以外の方であっても、かなり答えが分かれることが予想されます。
というのも、人事は会社にいる「人」に関連する業務の全てが守備範囲になります。
給与・勤怠管理などの労務面に始まり、社員のキャリア形成や風土の活性化などの人材開発・組織開発面まで非常に幅広い特徴があります。
だからこそ、どのような視界・視座で人事業務に取り組むかが問われるのです。また、どのような視界・視座の人事パーソンがいるかによって、企業の成長も変わるのです。

本記事は、現役の人事パーソンの意識などを紐解きながら、ゼロベースで人事の仕事の意義や今後の可能性について考えていきます。

人事の仕事の「現実」とは

大手企業であれば、人事部門のなかでも「採用」「人事企画」など、セクションを分けながら人事業務を行うことも珍しくありません。
しかし一般的に「バックヤード」や「コストセンター」と認識されている人事部門に、潤沢な人員が確保できている状態は稀でしょう。

したがって、人事パーソンは人材採用から社員のキャリア支援など、ジャンルや求められるスキルが異なる、複数のジャンルを担当することとなります。
加えて、新型コロナウイルスに代表される新しい働き方対応など、次々と未知のテーマが業務に加わる現状もあるでしょう。

現在の人事パーソンがどのように現実の仕事に向き合っていくか探るために、ある調査を紹介します。
1514名の人事パーソンに「いまの仕事内容に当てはまるもの」を聞いたところ、「常に新しい課題に対処しなければならない」(59.0%)、「やっていて当たり前だと思われる」(43.3%)、「仕事の終わりが見えない」(38.7%)が上位となり、4位以下を大きく引き離しました。上位の選択肢を眺めると、人事部門に従事している方々のシビアな状況がうかがえます。

「シン・人事の大研究」調査結果をもとに考える01

参照:「シン・人事の大研究」調査結果をもとに考える 人事パーソンの「仕事・学び・キャリア」

本調査をしたプロジェクトでは、この調査結果を「多忙化」「孤立化」「エンドレス化」の3つのキーワードで表現しています。この結果は、人事以外の職種と比較しても際立って高いことが分かっています。

つまり人事は目の前の仕事に忙殺されてしまい、やりたいと思っている仕事ができないストレスを抱えている現実が浮かび上がります。

人事の仕事の「兆し」とは

多忙でストレスが多い人事業務の現実はありますが、果たして当の人事パーソンはご自身の仕事をネガティブに捉えているのでしょうか。

調査では、人事の仕事のポジティブな面も聞いています。その結果、人事の方々は自分の仕事を「会社や事業の成長に貢献できる」(76.6%)「従業員の成長をサポートできる」(75.9%)「新しいことにチャレンジできる」(55.2%)と感じていることがわかりました。

「シン・人事の大研究」調査結果をもとに考える

参照:「シン・人事の大研究」調査結果をもとに考える 人事パーソンの「仕事・学び・キャリア」


「新しい課題に対処しなければならない」とは、苦しさはあるものの裏を返せば絶好の成長機会とも見なせます。 つまり、人事は空前の「クリエイティブ職」「イノベーション職」と見なせるのではないでしょうか。例えば、日本企業の多くの職場ではDX化の波が押し寄せています。 いちはやく人材ポートフォリオや勤怠管理などに「HRTech」を取り入れた企業が、人事メディアの好事例として取り上げられているのを目にした人も多いかと思います。
従来型の人事業務に、新しい技術・プロセスを持ち込むことで「クリエイティブな事例」が誕生しているのです。
このように「新しいことにチャレンジ」することで「会社や社員の成長に貢献」が叶うことは、今後の人事のやりがいを見出すひとつの筋道ではないでしょうか。

学びはアウトプットしてこそクリエイティブになる

新しいことにチャレンジするためには、人事パーソンは耐えず知識をインプットする必要があります。
なお、日本企業のビジネスパーソンは世界と比較しても「自己研鑽の時間が少ない」と声高に叫ばれています。会社を離れて、社外で自己啓発をしているかどうかという観点でも、残念な調査データがあります。
先進各国と比べても、圧倒的に日本人は「何もやっていない」という回答比率が高いのです。
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そんな日本企業のなかでも、人事パーソンは比較的学習意欲が高いといえます。
前述の調査での「学び」に関する項目では、他職種のビジネスパーソンと比較しても、人事は非常によく学んでいることが明らかになりました。仕事以外の時間でも、自発的に学習の時間を確保しているケースが目立ちます。

人事パーソンの学習時間

参照:「シン・人事の大研究」調査結果をもとに考える 人事パーソンの「仕事・学び・キャリア」

「人的資本経営」「リスキリング」など、人事の業界では次々と新しいトレンドワードが飛び交っています。
できるだけ最新の知識をインプットして、マーケットの潮流を捉えようとする人事の姿勢がうかがえるでしょう。
ただし、ハイパフォーマー人事とそうでない人事では、学び方に違いがあります。一言でまとめると、「インプットとアウトプットのバランスが取れているかどうか」です。インプット量に大きな差はなくても、得た知識を自業務の中で活用しているかという点において決定的な差があるのです。

インプットとアウトプットについては、人事業務の「かた」と「ち」のバランスに置き換えられるでしょう。杉浦康平『かたち誕生 図形のコスモロジー(NHK出版)』では「かたち」を、「かた」と「ち」が結びついた複合的なものとして捉えています。「かた」は「ものの外形・形状を定める規範となるもの」です。
一方「ち」とは、「いのち」の「ち」であり、からだを駆け巡ることで「血」の「ち」です。ともすれば静止し、安定しがちな「かた」をゆさぶり、絶え間なく流動させ、ざわめかせ、湧きたたせる。「ち」の働きが加わって、「かた」は生きた「かたち」へとその姿を変えてゆくとされています。

仕組みを「かた」、日々の実践を「ち」とすると、人事業務に置き換えれば「ち(血)」の働きが加わって、「かた(型)」は、生きた「かたち」へとその姿を変えてゆくといえます。

例えば「タレントマネジメントシステム」「ジョブ型雇用制度」などは、単なる「型」です。導入そのものは、コストとパワーを投じれば可能でしょう。
しかしそれらの「型」が、会社や社員の成長に寄与するためには、人事の創意工夫が必要です。
人事が「型」導入の目的を真摯に捉え、「血」という創意工夫を注ぎ込むことで、初めて「かたち」となります。
インプットした学びを、いかに自社の発展のためにアウトプットし、自社らしい「かたち」を完成させることは、今後のクリエイティブ型人事の必須条件でしょう。

人事の仕事には終わりはない

目の前の業務や人事のやりがいに目を向けてきましたが、やや中長期目線の「キャリア」に関する調査を最後に紹介します。
85%ほどの人事パーソンが、「人事の仕事を続けたい」と感じていることが調査により明らかになりました。これは他の職種と比べても高い数字です。

人事の仕事を続けたい
参照:「シン・人事の大研究」調査結果をもとに考える 人事パーソンの「仕事・学び・キャリア」

人事は「人」を対象にするだけあり、まさに「生きた仕事」なのです。
同じ業務であっても、相手にする「人」が違えば、もはや同じ業務とはいえません。
例えば、一度1on1ミーティングの仕組みを導入したとしても、社員の人員構成が変わったり、働く場所が変わったりすると、かつてと同じやり方では通用しなくなります。
自ずと、その時々に目の前にいる社員が最大限力を発揮する方法を考案する必要があるのです。
前述の調査の「終わりが見えない」は、言い換えると「終わりがない」ともいえます。
ある程度のベテランとなったと思った人事パーソンでも「人事はゴールがない」「ゴールは一つではない」と認識している方もいます。
究極的に考えると「企業の競争力の源泉となる人・組織戦略を描く」ことは、経営戦略と何ら変わらないともいえます。
先行きの見通しが効きにくく、変化が激しいVUCAの時代と言われる現代。
掘っても掘ってもやりがいが溢れ出てくる、チャレンジングな業務が「人事」なのです。

まとめ:会社の成長を支えるのは「人」でしかない

人事という言葉を分解すると「人を生かして事をなす」と置き換えられます。「会社」というような人物は存在しません。「会社」というものの実態は、一人ひとりの「人」で形成されているだけです。なお、「社風」という法人格に人格を付与する文化は欧米企業では珍しいといわれます。日本企業では、古くから一社ごとに社風を付与する文化があり、人という社員の存在は欧米企業よりも影響力が大きいでしょう。


とある著名マーケターの方が「マーケティングと人事は共通項が多い」という話をしていたことがあります。かつてのモノを作れば売れた時代、マーケティングという職種はありませんでした。しかし現在は業績を上げている企業の多くが、CMOのもと、卓越したマーケティング戦略を描いています。モノだけでは差別化が難しい時代だからです。人事も同じではないでしょうか。採用で自然にマッチングができ、入社した社員が生き生きと働き、自律的にキャリアを描くことができれば、人事の業務は必要最低限で済むはずです。
しかし現実はそうではありません。マーケティング同様、人事業務が最低限の実務管理に留まってしまっては、そこで企業の成長はストップします。


モノで差別化できない=ヒトが企業の差別化を生む時代。
「人が存在する限り、人事業務には終わりがない」という可能性を抱いている人事パーソンがいることが、勝ち続ける企業の条件となっているのではないでしょうか。