明日から現場で実践できる「リーダーシップの教科書」-総論編-

2023年11月08日 | リーダーシップ 明日から現場で実践できる「リーダーシップの教科書」-総論編-

先行きが不透明で変化が激しい時代、どんな優れた経営者や学者でも「正解」を導き出すのが難しくなっています。

だからこそ、そんな状況でも「最適解」を導き出せるリーダーの重要性が増しているのではないでしょうか。

もちろん、最適解にはさまざまな意味が内包されています。経験やスキルから来る決断力、あらゆるリスクを考慮した解、アカデミックな判例による確率論、などです。

そのような根拠は、メンバーや関係者に「正しそうな判断だ」と思わせる材料になります。
しかし今日の最適解が明日には変わるような時代においては、メンバーからの「この人の判断についていこう」という感情喚起の方が、リーダーには求められるのではないでしょうか。

「リーダーは重要なポジションだ」とひと言でまとめるのは簡単です。
今回の連載では、よりリーダーシップについて深掘りし、そのうえで今の時代に求められるリーダー像について考えてみます。

※なお本記事は【総論編】ですが、記事内の各章については後日【各論編】として、詳細記事に展開予定です。本記事でご興味があるテーマが見つかった際には、今後公開される【各論編】も合わせてお読みいただけると、より理解が深まるはずです。

right-icon01 昨今のリーダーを取り巻く厳しい環境変化

VUCAの時代であるといわれて久しく、私たちを取り巻くビジネス環境はこの数年で劇的な変化を遂げています。

海外新興企業の参入による業界地図の変化、創業100年企業の業績の傾き・・・・・・。環境変化で生じたネガティブな事象は、枚挙に暇がないでしょう。

業種によって変化の度合いや変化の影響はさまざまですが、多くの企業に影響が大きいと思われる要因は以下の3点といえます。


要因1. デジタルテクノロジーの発展

多くの企業で影響を受ける要因の一つは、デジタルテクノロジーの発展です。
AI(人工知能)、ビッグデータ、クラウド技術、IoT(インターネット・オブ・シングス)など様々なデジタル技術が急速に発展を遂げ、これまでにはなかった新商品やビジネスモデルが次々と誕生しています。

要因2. 新型コロナウイルスの流行

新型コロナウイルスの流行で、ダメージを受けた企業は数多く存在するでしょう。
コロナの影響で、人々の働き方やコミュニケーション手段は一変してしました。人々は外出を控えて三密を避けることを求められ、人や物に触れない非接触が推奨されています。
「アフターコロナ」といわれる現在でも、新型コロナウィルスの影響は業界によっては色濃く残っているでしょう。

要因3. 消費者ニーズの多様化

第3の要因は、消費者ニーズの多様化です。
スマートフォンやタブレットなどデジタルツールの普及によって、実店舗に足を運ばずにオンラインショップで購入するように、人々の消費行動は大きく変化してきています。
その一方で、高齢化が進む日本においては、デジタルツールをあまり活用しないシニア層の消費行動も無視できません。

ビジネス全体がこれら環境変化に対応していこうとすると、人・組織の舵取りをするリーダーの存在は否応なく重要性が増していることでしょう。

例えば、10年以上前に所属企業主催の研修を受講してリーダーシップのスキル開発をした社員が、現在もそのスキルを使いながら現場を指揮していたら、どのようなことが想定されるでしょうか。

「上から降りてきた目標をそのままメンバーに下ろす」「ウォーターフォール型の業務設計で、スピードが遅い」「期中にメンバーをサポートすることはなく、進捗確認のみ」などの現場の声があちこちの企業から聞かれます。

やや極端な例かもしれませんが、10年以上前のリーダーシップスキルだけでは、現代のビジネス環境を勝ち抜けるかは疑問が残ります。

つまり、今の環境に合わせてリーダーも変化が求められ、今の環境に合わせたリーダーシップ開発を行う必要があるのです。

right-icon02 リーダーが認識する組織状況とは

日本企業のリーダーを取り巻く組織環境をリアルに想像する際、2022年にリクルートマネジメントソリューションズで実施した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」が参考になります。

同調査では、企業の人事担当者の考える組織課題の第1位は「新価値創造・イノベーションが起こせていない」となっています。

先の読めない急速な変化が起こり得る社会のなかで、今までの延長線上にはない新価値の創造に取り組む人材の獲得・育成や組織づくりが、企業にとって重要課題になっていることは想像に難くありません。

一方で、そうした新価値創造への動きのキーとなるミドルリーダーの問題意識には、やや乖離が生じています。同調査での「管理職として重要だと考えている役割は何か?」という問いには、「メンバーの育成」「担当部署の目標達成/業務完遂」「業務改善」という項目が並びます。どちらかというと短期的な成果を上げることに注力せざるを得ないミドルリーダーの実態が浮かび上がってきます。組織からの要請とミドルリーダーの実態にこのようなギャップがあると想像されるなかで、組織状況は果たしてどのような状況なのでしょうか。「担当している組織の状況」を聞いた設問では次のような結果となっています。



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出所:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」

Aの「実行型マネジメント」が適する組織は、方針や仕事の進め方が固定的で、決定した目標を効率的に実行していくことが業績達成へとつながりやすい特性があります。
一方、Bの「自律共創型マネジメント」が適する組織は、先が読みづらく変化のスピードが速い環境下にあり、変化に合わせて個人や組織が学習しながら自律して判断をしていくことが有効となる特性があります。

2つの職場環境の選択率が拮抗しているように、リーダーやマネジャー自身は組織を取り巻く状況の変化を敏感に察知しているといえます。

とりわけ「1.自組織を取り巻く環境の変化はめまぐるしく、ほとんど予測が立たない」「3.上位方針や戦略が抽象的で、自組織で取り組むことは自分たちで考えて設定することが求められる」という項目の選択率の高さから、リーダー・マネジャー自身が考え、判断する自覚があるのはご理解いただけるのではないでしょうか。

right-icon03 日本企業でのリーダー不足という現状

次に具体的に現在の日本企業でのリーダー像について考えていきます。

長年続いた終身雇用制度の影響で、日本は年齢やヒエラルキーに基づく組織文化の企業が多いといえるでしょう。その影響で「リスク回避」「コミュニケーション欠如」「指示待ち」など、ネガティブな特性が目立つケースも散見されます。

また、「階層別研修」に代表されるような教育は受けているモノの、正しいリーダーシップを学ばないまま、リーダーの地位に就いてしまっている人も少なくはありません。

結果的に、国際的に見ると日本の企業人の競争力は高まりにくい状況になっています。
スイスのビジネススクールIMD(International Institute for Management Development)は、毎年国際人材競争力ランキングによると、日本の競争力は39位と低迷しているのです。

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なおこのランキングは、「①労働環境への投資と開発」「②国外の人材を引きつける魅力」「③人材が持つ技能や能力」の3つの指標がメインとなっています。

日本企業が労働環境や社員の人材開発に消極的な結果、国外へのアピール力やスキルが低下している状況が自明といえるでしょう。

この結果をリーダーシップ開発に置き換えて考えてみます。
つまり、企業の競争力につながるレベルのリーダーシップ開発に取り組むには、かなり不利な状況からスタートになるということです。
一方、企業が本腰を入れてリーダーシップ開発に取り組めば、少なくとも国内企業内での競争力を獲得できるという見方もできるでしょう。

次に、今から自社でリーダーシップ開発をする際に、どのような観点で教育を施すかについて考えていきます。

right-icon04 VUCA時代に求められるリーダーシップ像とは


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V(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字を取ったVUCA時代。

このような、先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代に開発すべきリーダーシップはどのようなものなのでしょうか。

リーダーシップとマネジメントの違い

リーダーとマネジャーの違いを混同している方も、意外と多いのではないでしょうか。

リーダーシップは、環境の変化に対処して組織に変革をもたらすもので、マネジメントは、環境の複雑さに対処して既存のシステムを動かすことです。
よく「リーダーは変革者・開発者」「マネジャーは管理者・統括者」といわれるように、求められる役割や定義は異なります。

つまりマネジャーは組織の数だけ必要となり、逆に組織の数以上は必要ありません。一方、リーダーシップは「リーダーのみ」が発揮するものではないのです。

チームの中で、リーダーの役割の人だけでなく、メンバー全員でリーダーシップを発揮している状態のことを、アカデミックなキーワードでは「シェアド・リーダーシップ」と呼びます。
誰か一人がリーダーシップを発揮しているのではなく、チームで分散・共有しているようなイメージです。分かりやすく表現すると「全員発揮のリーダーシップ」と呼べるような状況といえます。

全員発揮のリーダーシップが求められる背景には「決まった事項を素早く・正しく・大量に」実行する時代から、「まだ正解が分からないことを、探索的かつ実験的におこなう時代」になってきたからといえるでしょう。

リーダーシップの基本理論:SL理論とPM理論

リーダーシップは必ずしも一つの方法が最適とはされておらず、客観的な認識により状況に応じた方法を選択することが重要といわれています。

リーダー自身の行動や部下の状況によって分類されるリーダーシップ理論として「PM理論」「SL理論」が挙げられます。

PM理論の行動特性が、「目標達成行動:P行動(performance)」と「集団維持行動:M行動(maintenance)」です。

一方の「SL理論」は、部下への接し方について、「援助的行動」を縦軸、「指示的行動」を横軸の2軸で捉えます。さらに縦軸、横軸を組み合わせて、「S1:教示的リーダーシップ」「S2:説得的リーダーシップ」「S3:参加的リーダーシップ」「S4:委任的リーダーシップ」の4つで部下とのコミュニケーションを捉えます。

このような基本理論を学んでおくことで、状況変化がめまぐるしい時代においても、リーダー自身が最適な行動を選択できることにつながるでしょう。

VUCA時代に注目を集めるリーダーシップとは

前述した「シェアド・リーダーシップ」以外にも、「○○リーダーシップ」と呼ばれる理論は数多く存在します。

時代を紐解くと、各時代の労働環境や求められる人材要件に応じて、リーダーシップ理論はさまざまな変化を遂げてきました。

VUCA時代の特性を踏まえると「サーバントリーダーシップ」「オーセンティック・リーダーシップ」「セキュアベース・リーダーシップ」などが、学ぶべき対象となるでしょう。

いずれのリーダーシップも「変化に柔軟対応できる」「信条がしっかりしている」など、VUCA時代ならではのリーダーシップです。

right-icon05 リーダーの役割と獲得すべき能力


リーダーが獲得すべき能力は、リーダーが果たすべき役割から考えることが重要です。

リーダーは多くの時間を、目標の成果達成に必要な条件や期待される事を思案し意思決定することに充てます。そして、それらを自分と同じレベルでメンバーに浸透させる役割も担っています。

リーダーは常にチームメンバーに「期待される成果は何か?」「目的は何か?」を訪ね、もし「わからない」との返答であれば、メンバーに対してそれらを明確に指導する必要があるのです。

そんな役割のもと、優れたリーダーに共通する4つの特徴を紹介します。これらは、「能力開発の前提となる条件」のようなものです。

1.チームの信頼関係を醸成する

他者と仕事をして成果を出すリーダーは、信頼関係を構築するのは最重要事項でしょう。

透明性を持って誠実に向き合う必要があります。時には、リーダーとして自身の課題や困難な取り組みをメンバーと共有することも大切です。

2.メンバーへの思いやりや配慮がある

成果を上げるためには、メンバー一人ひとりの思いや動きが根底にあります。

したがって、チームメンバーの能力だけでなく、日常的に彼らに目配りし、気配りし大切に接する事がリーダーには求められます。
メンバーが公私限らず困難な状況では、親身になって対処することがリーダーの役割でしょう。

3.揺るぎない姿勢・信念を持つ

不透明な時代においては、リーダー自身が揺るぎない姿勢や信念を持つことが重要になります。

精神的な安らぎの場を作るために、メンバーの質問に誠実に答え対処し、提案するアイデアや不安や日々の課題を聞きく誠実さとそれに対する的確なアドバイスが必要です。
やり取りの際に、一本芯が通った信念があれば、メンバーからの信頼感は増すでしょう。

4.明るい未来を共有する

メンバーは、リーダーが正しい方向へ導いてくれる事を期待します。
そのため、どのような苦しい状況であっても、リーダーは明るい未来を指し示す必要があるのです。

もちろん、表面的に未来を語るだけでは、説得力が乏しくなります。
困難な状況に置いても「絶対に乗り越えられる」という情熱を持ち、その熱量と同等の「どうすれば乗り越えられるのか」という知恵を絞らなくてはなりません。

このような優れたリーダーが果たすべき役割を考えた時に、「共創力」「リスク管理力」など、開発すべき能力が見えてくるはずです。同時に、VUCAの時代にその能力を適切に発揮するために、「OODAループ」に代表される必要とされる知識も見えてくるでしょう。

 

right-icon まとめ


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リーダーは「先導者」「指導者」「リーダー」「首領」「指揮官」と訳される事も多く、一メンバー目線ではついつい自分とはかけ離れた存在で、偉大な存在だと思いがちです。

リーダーシップ研究について大学でも教鞭をとられている野田智義先生と金井壽宏先生の共著『リーダーシップの旅』では、そのような捉え方を緩和する示唆が得られます。

リーダーは生まれ持った才能でリーダーになるわけではなく、また、リーダーになろうと思ってなるわけではないのです。
「リーダーが旅に出るのではなく、旅に出るからリーダーになる」と書では述べられています。その旅のプロセスで「リード・ザ・セルフ→リード・ザ・ピープル→リード・ザ・ソサエティ」と進化していくプロセスがあるのです。

つまり、リーダーやリーダーシップはあらかじめ準備されたものでなく、一人の人間が新たな境地を目指して冒険を始めるものといえます。そして、目標や考え方に共感した賛同者(フォロワー)が現れた時に、最初に行動を起こした人はリーダーとなるということです。

そう考えると、リーダーシップは誰の前にも広がっているのではないでしょうか。「何かを見たい」「何かを成し遂げたい」という気持ちがあれば、可能性は無限に膨らむものなのです。


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