第14回

中小企業 2代目、3代目
経営者のデジタル改革奮闘記

産業用電機機器の専門商社の2代目が挑むDX
株式会社サンヨーシステム(後編)


2024/06/28

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本シリーズでは業界・業種を問わず、中小企業の2代目もしくは3代目の経営者の経営改革をテーマにする。特に「DX(デジタルトランスフォーメーション)への挑戦」にフォーカスを当てる。ITデジタルの施策に熱心に取り組み、仕事のあり方や進め方、社員の意識、さらには製品、商品、サービス、そして会社までを変えようとしている企業をセレクトする。

 

第1回 株式会社木元省美堂
第2回 株式会社木元省美堂
第3回 社労士法人名南経営
第4回 社労士法人名南経営
第5回 株式会社テクニカ

第6回 株式会社テクニカ

第7回 宮脇鉄管株式会社

第8回 宮脇鉄管株式会社

第9回 株式会社ツジマキ

第10回 株式会社ツジマキ

第11回 ヒグチ鋼管株式会社
第12回 ヒグチ鋼管株式会社

 

 

前回(第13回)と今回(第14回)では、株式会社サンヨーシステム(川崎市)の2代目の代表取締役社長である鈴木圭祐氏を取材した内容を紹介したい。

同社は1996年の創業で、今年(2024年)で29年目。三菱電機の大型ビルや工場などで使われる産業用電機機器を販売する専門商社。鈴木社長は2005年に入社し、創業者である板倉陽三社長から10年かけて後継者になるべく、教育指導を受ける。2019年に2代目の社長に就任。社員や家族、取引先、顧客、株主、地域社会などを大切する経営を志している。2024年5月現在、正社員19人。売上10億円。

 

 

 

01 ―――

1996年の創業以来、初の赤字

 

「2019年に社長に就任した時が、正社員は24人、売上が12億円前後。創業25年目でした。先代が70歳で第2の創業をしてから、10年が経った時です。先代が10年を費やし、育てた社員たちが力をつけてきた頃でもありました。

ところが、2年目になると状況が変わりはじめます。会長であった先代が82歳で他界し、コロナウィルスの感染が拡大し、業績が悪化する企業が増えてきました。弊社も様々な努力をしたものの、10億円を下回るようになったのです。3年目の2021年はコロナウィルス感染拡大の影響で、日本国内では半導体をはじめとする部品の調達が難しくなりました。産業用電機機器を扱う弊社もまた、影響を受けたのです。この時に1996年の創業以来、初の赤字となりました」

 




02 ―――

毎月、退職者が現われる  

 

「業績難もつらいものがありますが、何よりも厳しかったのは社員の退職です。1年間で7人が退職しました。毎月、辞める人が現れた時期があり、辞表を受け取るのがつらかったです。20人前後の会社で、このペースで退職者がいると深刻です。経営者として人としても否定された気がしました。夫婦でいえば、相手から「慰謝料はいらないから離婚をしたい」と言われるようなものですから、ずいぶんと落ち込みました。あの頃は、亡くなった先代のことをよく思い起こしました。その後、4年目の2022年、5年目の2023年と業績は回復し、10億円を超えています。売上を追うというよりは、利益を重視するようにしています。

業績を回復しようとする際に重視したことの1つが、社員がいかに働きやすい職場にするかです。社員が不満を抱えていてはいい仕事はできないでしょう。お客様にも申し訳ないと思います。そこでITデジタル化を進めたのです。うれしいことにこの2年(2023年、2024年)で現在までは、退職者がいないのです。それぞれの社員の伸びしろが高く、どんどんと成長しています。私のほうがずいぶんと助けられています」

 

 

 

03 ―――

ITデジタルの態勢を強化し、業績回復 

 

「コロナウィルス感染拡大の時期に、ITデジタルの態勢を強化しました。それ以前から取り組んでいましたが、これを機にさらに力を入れたのです。社内事情からすると、浸透しやすいと思いました。正社員20人程のうち、半数は営業担当であり、半数は総務や経理、営業のサポートなどです。営業担当者とは離れていても、スマホで意思疎通がしやすい。総務や経理、営業のサポートの担当者も自宅で仕事ができます。

この時期は中小企業がITデジタル化を進めようとする場合、役所に必要書類を提出し、審査のうえ、認められれば補助金が支給されました。私たちも申請し、いただいた補助金でITデジタル機器を購入することができました。特に在宅勤務が問題なくできるようなツールをそろえました。たとえばノート型パソコンやマルチディスプレイ、バッテリー、管理ツールなどです。

ITデジタル化は、弊社のような中小企業では社員の採用を考慮するとたいへんに重要です。中途採用を中心としており、総務や経理、営業のサポートの担当者は以前から女性が多いのです。たとえば、お子さんの体調がよくない時に母親が家にいるほうがいい場合があります。その際は有給休暇を消化していただくのも会社として何ら問題はないのですが、家で仕事ができる選択肢もあったほうがよいでしょう」

 

 

04 ―――

最も重視したのは働きやすい職場にすること  

 


「2020年にコロナウィルスの感染が本格化した時は、過密を避けるために全社員に自宅で仕事をすることを奨励しました。2024年現在は、総務や経理、営業のサポートの担当者はフルテレワークか、オフィスでの勤務かを選ぶことができるようにしています。

前者はオフィスへの出社は原則として必要なく、フルタイムで自宅で仕事ができます。双方の働き方を状況に応じて変えることも可能です。フルテレワークを続ける場合、その社員が孤立感を感じないような配慮も必要でしょうね。たとえば担当する仕事がほかの社員の仕事とどのように関わり、どのくらいに役立っているかを随時、伝えています。特に「関わり」のところが、重要なのではないでしょうか。

私としては、社員が働きやすい職場にしたいのです。ITデジタル化を推し進める目的は労働生産性を上げることでもありますが、最も重視したのは働きやすい職場にすることでした。先代から受け継いだ理念である”会社は社員のもの”を大切にしたいのです」

 

 

 

05 ―――

アナログでの仕事の仕方を再現したい  

 

「この業界は依然としてファクスを使うケースが多いのですが、コロナウィルスの感染が拡大した1年目にその商習慣を変えてみたいと思ったのです。そこでまず、弊社への注文書はPDFなどにしてメールで送っていただくようにお客様にお願いしました。8割は、メールで送ってくださるようになりました。ただし、高齢の方が経営をする町工場の一部ではその切り替えが様々な事情でできない場合もあります。それはきちんと考慮し、こちらが無理に進めることはしていません。

社内の仕事でもペーパレス化を可能な限り、進めました。前々から在宅勤務を推進するためにも不可欠と考えていましたから、大胆に試みました。コロナウィルスの感染拡大でITデジタル化を進展させることができたのはよかったと思っています。

もう1つの商習慣があります。それは、電話でのやりとりが多いこと。お客様から頻繁にオフィスに電話があるのですが、それを受けた社員が在宅勤務やルート営業をする担当者につなぎます。各自がスマホを使うことで迅速に対応しています。電話が多い業界だからこそ、むしろ、ITデジタル化が効果を発揮するように思います。

私としては、ITデジタル化を推し進めてこれまでのアナログでの仕事の仕方を再現したいのです。そのまま再現ではなく、社員が働きやすく、効率化がされることはもちろん大切です。新しい働き方やビジネスモデルを構築することよりも、まずはアナログでの仕事のスタイルのレベルを上げることに重きを置いています。そのほうが、弊社の規模に合うようにも思うのです」

 



06 ―――

ITデジタル化にリスクはあるが、メリットは大きい

 

「2020年の頃、在宅勤務をしようとすると知人の中小企業経営者の中には「データが流出したりして危なくないですか?」と聞いてくる人がいました。その不安はわからないでもないのですが、先代から受け継いだ理念は大切にしたいのです。会社は社員のものであり、社員が働きやすいようにしたい。データをはじめ、情報漏洩がないように管理ツールをそれぞれのパソコンに入れ、管理はしています。全社員には、守秘義務の厳守をあらためて指示もしました。リスクはありうるのですが、それをきちんとマネジメントしていけば、メリットは大きいのです。

社内の大きな変化としては、全般的にスピードが速くなったことです。たとえば、チャットツールのスラック(Slack)を全社員で使っています。以前よりは、部署内や個々の社員のやりとりのテンポが速い。仕事のスピードも速くなっているように感じます。管理ツールを導入していますから、スマホを使い、勤怠記録の入力や決算などの各種データを素早く見ることもできます。このあたりを整備しておかないと、在宅勤務や営業担当者が社外で仕事をすることはスムーズにできないでしょう」

 


07 ―――

今、最大のテーマは組織化 

 

「特に2020年以降、ITデジタル化はおおむね上手く進んできたのではないかと思います。これからも、レベルを上げていくようにしますが、今、最大のテーマは組織化です。20人前後の社員がいて、中途採用者が多く、前職までのキャリアも様々です。在宅勤務や営業担当として外出する機会が多い社員もいます。こういう中でチームとしてスムーズに動くのは難しいと感じる時があります。

私が気をつけていることの1つは、担当の仕事をあえて持たないこと。売上を増やすことだけに力を注ぐならば、営業担当として終日動くようにしたほうがいいでしょうね。しかし、それでは社内にいて管理部門の社員からの報告や相談に対応ができません。営業担当者と話し合うこともできないでしょう。

ですので、担当の仕事は持たずに各自の仕事に様々なタイミングや状況で関わることができるようにしています。私が個々の社員とじかに話し、仕事を進めることが増えると、その社員の上司である課長や部長がおもしろくないかもしれません。私なりに気をつけてはいるのですが、難しい時もあります。先代もまた、担当を持たないようにしていました。おそらく、持ってしまうと組織化ができなくなるかもしれないと察していたのではないか、と思います」






08 ―――

サンヨーシステムは社員が主役であり続けるべき

 

「組織化を進めるうえで、オフィスはワンフロアにこだわっています。営業担当や管理部門の担当者らが1つの室内で仕事をすることで互いに見えるようにしたい。刺激を受け、学び合える職場にしたいのです。社長になってしみじみと感じるのですが、社員から刺激を受けたり、学ぶことのほうが、私が社員に教えることよりもはるかに多いのです。営業ならば経験が豊富ですから、多少は教えることができるでしょうね。ただ、仕事への姿勢や考え方、生き方は各自がすばらしいものを持っています。私としては、こういう社員と仕事ができることに感謝しかありません。

中小企業の経営者は、社員たちとともに学ぶ姿勢を持たないといけないと思っています。その姿勢でいないと社員は意見を言わないし、提案もしないでしょう。問題やトラブルがあったとしても、報告をしないかもしれない。それでは組織化はできません。業績を向上させることも難しいのかもしれませんね。

売上だけを追うことはしていませんが、現在、10億円に達し、その壁は乗り越えることができました。10億円の壁を意識することは多かったです。組織化と共有化が功を奏したのかもしれません。社員とともに学び、成長するしかない。社員が本気を出した時、その会社は強いですよ。自分が本気を出すだけの価値があるのか、を見ているのでないかと思います。だからこそ、そのような会社を社員とともにつくりたい。それも、先代から学んだことなのです。

10億円の壁にぶつかる企業はまず、経理公開を隅々までしたほうがいいと思います。隠すから、社員は不安や不満、疑いを持つのです。そこで心に壁をつくる。このくらいの仕事をしておけば、いいだろうと思うのでしょう。本気ではないのでしょうね。私が経理公開をしているのは、皆と本気で仕事をしたいからでもあるのです。経理公開を大胆にするのは、目先の欲に負けてお金や財産を積んでいく人は、最後は失敗するケースが多いように見えるからです。自分がそうならないようにしたいのです。先代の教えどおり、サンヨーシステムは社員が主役であり続けるべきと思っています」

 

 

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著者: JOB Scope編集部
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