シリーズ あの人この人の「働き方」

賃上げを毎年継続できる中小企業の5大特徴

~ ドキュメント 中小企業の賃上げ (その2) ~

 

前回(その1)another-window-iconでは地方の中小企業が賃上げに挑む事例を紹介したが、今回はそれをもとに深く考えたい。なお、前回の前には下記の3本を掲載した。中小企業にとっての賃上げをテーマとしている。大企業はともかく、小さな会社にとっては難しいことである。この3本をご覧になったうえで前回の記事に目を通してくださると、より深くご理解いただけるのではないか、と思う。

 

 

 

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01 ―――

何かをいい意味であきらめ、切り捨てている

 

私たち編集部が日々のヒアリングで中小企業の経営者らに伺うと、大きな特徴が5つ見えてくる。賃上げを毎年継続できる企業は、何かをいい意味であきらめ、切り捨てているのだ。その何かは、主に以下のものとなる。

 

  • ①売上至上主義の考え
  • ②顧客最優先
  • ③忙しさ=業績拡大=成長・発展
  • ④成功体験
  • ⑤社長である自分がなんとかするし、なんとかできる

 

 

 

02 ―――

売上至上主義の考え

 

「売上至上主義の考え」について言えば、確かにある程度の売上は必要である。それがなければ経営は成り立たない。各種の支払いはできないし、利益が出ない。賃上げなど、到底できないだろう。売上は可能な限り、増えるようにすべきではある。

 

中小企業は総じて労働分配率が高いため、付加価値(企業が新しく生み出す価値)を毎年大幅に(例:10%以上)増やさないと、毎年の大きな賃上げ(前年度比5%以上)が難しい可能性がある。政府や経済界がデフレ脱却を推し進めている以上、今後も物価は相対的に上がり、税負担も増える可能性が高い。一時的に下がったとしても、高止まりすることが考えられる。

 

企業は高くなる物価や税負担に見合う賃上げをしていかないと、新卒・中途ともに採用ではエントリー者数が伸び悩んだり、減ったりして苦しくなる。社員たちも辞めていくケースが増えるだろう。これでは職場が疲弊する。売上や利益は頭打ちになるかもしれない。それを警戒し、実際の春闘(2023〜2025年)では、大企業をはじめ、一部の中小企業では全体で3〜5%賃上げが実現している。このペースを毎年続けるには、売上・生産性の継続成長が必要になる。

 

 

 

03 ―――

「売上を追っても、会社として強くはならない」

 

ヒグチ鋼管
ヒグチ鋼管

1つの努力目標として「売上を毎年5〜8%伸ばす(=稼ぐ力を強化する)と、社員の給与を3〜5%上げても会社が潰れない余裕が生まれる」と言える。しかし、中小企業は売上を増やそうとしても、利益が期待した通りには出ない現実にぶつかることが少なくない。

 

そこで、目覚める企業がある。PL(損益計算書)上では黒字なのだが、キャッシュが厚くならない。「売上を追っても、会社として強くはならない」と実感するのだ。PLでは判断できない違和感とも言える。この感覚を持つ企業の一部が売上よりも、利益を重視する方向にシフトしていく。この士渕が重要であるが、容易ではない。何らかの工夫をして利益率を高めるようにしないといけない。

 

 

ヒグチ鋼管
ヒグチ鋼管

中小企業の経営者は利益率が10%ならばある程度は余裕かもしれないが、7%になると不安のはず。5%以下は、確実に危機意識を持つ。5%を常に下回ると、売上だけを追いかけるのではなく、利益をこれまで以上に意識し、付加価値をしっかり伸ばすように試みるはずだ。そのために労働生産性を上げ、高い価値の商品や製品、サービスを提供する。これを徹底させると、社員の賃上げに回せるお金の余裕が生まれうる。そのような経営の基本に立ち返るのだ。

 

ヒグチ鋼管
ヒグチ鋼管

それをしている企業の一例を挙げよう。たとえば、2024年に私たちがヒアリングをしたヒグチ鋼管(大阪府)の記事が下記である。ここで紹介した社長や役員は売上が10億円前後で一時期伸び悩んだ頃から、利益を一段と重んじるようにした。その結果、ヒアリング時(2024年)には30億円を目前にしたところまで成長し、さらなる躍進をしている。その経緯の詳細を取り上げた。

 

 

 

 

04 ―――

生産性向上の本当の意味

 

利益や利益率を考える際、「生産性向上」がマスメディアやSNSでよく取り上げられる。たとえば「無駄な会議をなくす」「仕事のスピードを上げる」のようなイメージで語られがちである。これらも利益率を高めるために大切であるが、もっと本質的な「稼ぐ力」を強化するための広い取り組みが急務だ。付加価値を増やし、社員1人あたりの成果を高めることが必要になる。これこそが、生産性向上の本当の意味ではないだろうか。単に「速く仕事する」ではなく、少ない労力でより高い価値を生み出すことを意味する。

 

無駄な会議をなくすのは効率化の一部であるが、それだけだと「同じ価値を速く作る」だけで付加価値自体が大きくは増えない。真の生産性向上は、アウトプット(生み出す価値)を大きくすること。生産性向上の主な方法には、次の2つのアプローチがある。

 

1.インプット(投入する労力・時間)を減らす

 

  • ・業務の見える化(フローチャートで無駄を洗い出す)
  • ・ITツール・RPA(ロボット)の導入で定型業務を自動化(事務作業のペーパーレス化、グループウェアで情報共有)
  • ・業務の標準化・マニュアル化(誰がやっても、同じ品質に)
  • ・人員配置の最適化(得意な人に適した仕事を割り当てる)

 

2.アウトプット(付加価値)を増やす

 

  • ・高付加価値商品・サービスの開発:新商品の研究開発、独自技術の活用、差別化
  • ・価格転嫁(値上げ):コスト上昇分を価格に反映させる
  • ・売上向上策:マーケティング強化、新規顧客開拓、海外展開
  • ・社員のスキルアップ:研修や教育で能力を高め、創造的な仕事ができるように(IoTやAIの活用スキル)
  • ・設備投資:新しい機械・システムで効率と品質を両立

 

具体例は、下記のようなものである。

 

  • ・スーパー:セルフレジ導入で人手を減らし(効率化)、空いた人を総菜加工(高付加価値商品作り)に回す → 売上・利益アップ
  • ・製造業:AIやロボットを入れて自動化しつつ、新たな高機能製品を開発 → 付加価値が増え、賃上げ余力が生まれる。
  • ・サービス業:デジタルツールで予約・在庫管理を効率化し、社員が顧客対応の質を上げる時間を作り、満足度向上 → リピート増で売上アップ。

 

スーパーやまと
スーパーやまと

私たち編集部が2025年にヒアリングして記事にまとめたのが、次のものだ。記事で紹介したスーパーやまとはITデジタルに果敢に挑んだ。たとえばセルフレジ導入で人手を減らし、空いた人を総菜加工(高付加価値商品作り)に回し、売上・利益アップさせた。5本連続で詳細を紹介しているので、ご覧いただきたい。

 

 

本当の生産性向上は、より価値の高いものを生み出して良質な顧客を増やし、ファンやリピータ―となってもらい、しっかり稼ぐこと。これで売上、付加価値が伸びれば3〜5%の賃上げも可能になりうる。

 

付加価値を上げる点では、参考になる記事がある。私たち編集部がクリエイティブな活動を続けるザリガニワークスに2025年にヒアリングして記事にまとめたのが次のものだ。多数のクリエイターがひしめく中、ザリガニワークスの2人は圧倒的な個性でマスメディアやSNSへの露出度を高めてきた。結果として、良質のクライアントが多数となる。

 

前編と後編に目を通していただくと、2人が創業時からいかにブランド力を強化してきたか、その試みがいかにビジネスに生きているかー、これらがわかるのではないだろうか。ぜひ、ご覧いただきたい。

 

 

 

 

05 ―――

顧客最優先

 

5大特徴の2つめは、顧客である。顧客がいないと、売上がなくなる。まして競合優位な商品や製品、サービスを持たない中小企業にとっては、顧客はさらに重要な存在だろう。しかし、ここで振り返ってみたい。これまでにたとえば、下記のようなことはなかっただろうか。

 

  • ・常識外の詳細な注文やクレームをつけられる
  • ・その注文やクレームも意味がわからないなど、対応に苦慮する
  • ・催促は常識外なほどに細かいのだが、こちらへの連絡や支払い(入金)が遅れるなどルーズで、不誠実な対応をしてくる
  • ・担当者やその上司が要領を得ない対応を繰り返し、こちらが相当に余計な時間や労力を使う
  • ・これら一連の問題の改善の余地が一向に見られない
  • ・そもそも利益率の悪い仕事であり、今後も変わりそうにない

 

これらが続くならば、考えたほうがいいのかもしれない。この顧客から得る売上が仮に300万円とする。契約が切れて300万円が入ってこなくなると、当面は痛手になるだろう。資金切りに苦しむ企業ならば、なおさらのはず。しかし、実はこの顧客に振り回されて使ったり、失ったりした時間や労力、実費は300万円をはるかに超える可能性が高いのではないだろうか。300万円を得ようとするために、数千万円~数億円以上の損失を被ることもありうるだろう。このような顧客が一定数あると、利益率はなかなか上がらないはずだ。

 

顧客に振り回される関係のままでは、「売上を維持するために利益を増やす機会を失っている」とも言えよう。たとえば、この顧客との関係を清算したがゆえに社員たちの気分が落ち着き、職場の空気がよくなるケースがある。チームワークが一段と強くなり、職場の意識が高くなり、個々の仕事の成果がさらに上がる場合もある。顧客は大切な存在だが、大きな損失を被ってまで関係を続ける意味があるのかどうかー。これを機会あるごとに考えたい。利益率を上げていく時に見失いがちな視点だ。

 

私たち編集部がメーカーのEBINAX (エビナックス)を2024年にヒアリングして記事にまとめたのが、下記のものだ。3本連続の記事であるが、すべてをご覧いただくと、顧客を大切にしながらも自社にとってメリットのある相手を選ぶ姿が見えてくるのではないだろうか。売上や生産性、付加価値、利益を上げていく仕組みをぜひ感じ取っていただきたい。

 

 

 

 

06 ―――

「忙しさ=業績拡大=成長・発展」

 

3つの特徴は、「忙しさ=業績拡大=成長・発展」といった考えだ。仕事の量が多く、忙しい。だが、利益が薄いー。こう感じる時はこの考えに影響を強く受けているのかもしれない。多くの仕事を抱えこむと確かに充実感はあるし、時に満足感も得られるだろう。しかし、それに見合う利益は出ていない場合はある。

 

たとえば、前述のようにクレームの多い顧客に振り回されると、社員1人あたりの粗利や利益が減っていく可能性はあるに違いない。利益率を高めるならば、個々の社員の仕事の中身や量、求めるレベルを再確認し、調整し直す必要がある。

 

一例を挙げたい。私たちが2023年にヒアリングした小さな不動産会社(社員数15人)のケースだ。ここは「売上を増やさねば…」との決意から一時期、広告費を前年度比50%増とした。この攻勢で問い合わせの件数や売上はわずかではあるが、増えた。しかし、受注単価が下がり、値引きをしたケースもある。結果として、利益は以前とさほど変わらない。仕事の量が増えても、利益がそれに応じて増えない。「職場や社員たちが疲弊するだけだった」と役員は答えていた。

 

2024年前後からこの企業は「忙しさ=業績拡大=成長・発展」といった考えを捨てた。広告を大量に使い、客をかき集め、当面の売上増としても、賃上げの原資にはならないと悟ったのだ。顧客の質を変えるためにも集客のスタイルを大幅に刷新した。たとえばホームページ、Facebook、インスタグラム、X(Twitter)を盛んに使う。最近は動画を使用すると、アクセスやPVが増える傾向を意識し、社員たちがスマホを使い、自社で扱う物件を紹介する。

 

それとは別に、社員が物件周辺のコンビニ、商店街、最寄り駅までの道を動画で撮影し、インスタグラムにアップする。物件の移住者が通勤や通学で最寄り駅を使うのを想定し、いくつかの道を撮影している。晴れの日だけでなく、雨や強い風の時、駅付近の自転車置き場も。

 

さらにはこの不動産会社の社員たちがランチで行くお店10数店の店主にそれぞれ数分のインタビューまでしている。インスタグラムへの呼び水となりうるX(Twitter)では、営業や総務の社員5人が個別で運営する。5人分のアカウントを会社として持ち、各自が物件の周辺を随時紹介する。最寄り駅や駅付近の様々な店舗などだ。店舗はできるだけ、生活に密着したものを選ぶ。コンビニ、スーパー、薬局、ファミレス、コンビニ、立ち飲み屋などだ。

 

ネット展開しようとすると、アクセスやPVを増やすために広い地域を想定した内容になるケースがあるが、この不動産会社はあえて狭い地域とした。差別化戦略でもあるが、徹底して地元、地域密着にしてニッチな内容にしたのだ。そのこだわりは強い。小さな話題となるようにしてブランド力を高め、固定ファンをつかむようにしたのだ。それぞれのSNSへのアクセスが増え、来店客の契約率がしだいに上がり、2025年後半からは利益率が少しずつ上がっているという。

 

SNSの使い分けは、次のようにしている。

 

  • ・ホームページ:会社の連絡先、事業案内、オフィスや扱う物件の様子
  • ・Facebook:社員15人の紹介(随時)。物件を画像を交え、紹介。住む側の目線で細かく書く。明るさや広さ、水回り、騒音、防犯カメラなど。
  • ・インスタグラム:物件や周辺のコンビニ、商店街、最寄り駅までの道を動画で撮影
  • ・X(Twitter):物件や周辺のコンビニ、商店街、最寄り駅までの道をテキスト(文章)で短く簡潔に紹介。Facebookやインスタグラムにリンク。

 

 

 

07 ―――

「成功体験」「自分がなんとかするし、なんとかできる」

 

たんぽぽ不動産
たんぽぽ不動産

5つの特徴の4つめが「成功体験」、5つめが「社長である自分がなんとかするし、なんとかできる」といった考えだ。この2つは、表裏一体と言える。中小企業では社長や役員など経営者の力によるものが大きい。特に社長がオーナーの場合、極めて重要な存在である。おそらく、本人もそれを自覚し、懸命に仕事をするのだろう。ほかの役員や管理職の仕事を結果として取り上げてでも、自分で対処しようとする傾向がある。それほどにこだわりが強い。

 

それで売上10億円前後までたどりつく場合もあるだろうが、大半は壁にぶつかる。俗に言う「10億円の壁」である。ここまで売上を増やしたこと自体が「成功体験」と言えよう。成功するのは素晴らしいのだが、経営者はこのあたりで発想を変える必要がある。たとえば「もう、2~3億円のステージとは違うのだ」と自らに言い聞かせ、役員や管理職に次々と権限移譲し、会社全体で動くようにしないといけない。組織で稼ぐ態勢をつくりたい。

 

たんぽぽ不動産
たんぽぽ不動産

だが、これも難しい。多くの経営者ができない。成功体験が強烈すぎたのだろうか。それでも権限移譲し、仕事を任せていくべきではないだろうか。そうしないと、組織をつくることが難しい。経営者たちのその思いや取り組み、失敗や成功事例を下記の記事ではくわしく紹介した。ご覧いただきたい。

 

 

 

 

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著者: JOB Scope編集部
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