シリーズ あの人この人の「働き方」

中小企業の社長に必要なもの

~ 元プロボクサーのラーメン店 店主 坪井将誉(最終編)~

コロナにも水頭症にも打ち勝ちた 


2025/4/21 

 

digital-reform-49_03_01前々回前回に続き、今回は元プロボクサーで、ラーメン店「気合いのラーメン つぼ」JR兵庫駅から徒歩8分を営む坪井将誉さん52歳を取材した内容を紹介したい。

坪井さんは中学生の時にボクシングジムに入門し、練習生になる。高校卒業後、1993年、千里馬神戸ジムからプロデビュー。2000年4月の試合を最後に引退した。ライトフライ級など4階級での戦績は、3勝2KО13敗1分け。

引退後、しばらくは訪問販売などの仕事をしていたが、かねてから好物だったラーメン店の店主になるために、地元でよく知られる有名店での修業を積む。

2007年から「気合いのラーメン つぼ」の経営を始めた。

2015年からは、「ラーメン☆TSUBO」のリングネームで立ち技系プロ格闘技の大会に出場する。

2022年に引退。

2023年に医師から水頭症と診断され、現在、闘病中ではあるが、気合で営業中。

 

 

◆「気合いのラーメン つぼ」

・住所:兵庫県神戸市兵庫区西柳原町8-14

・交通手段:兵庫駅から徒歩8分、新開地駅から徒歩10分、大開駅から徒歩13分。

・営業時間:[昼] 11:00~14:00  [夜] 17:00~翌3:00

・休み:月曜日は夜の営業は休み。火曜日は定休日

・人気 / オススメ:ねぎたっぷりの塩バターラーメン990円、醤油ラーメン並盛850円、塩ラーメン並盛850円、みそラーメン並盛850円など。

・その他:ライス240円、チャーシュー丼520円、キムチ丼450円

・昼のライスセット:ラーメン・ライス・キムチ900円

チャーシュー丼セットはラーメン、チャーシュー丼、キムチ1030円。

 

 

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01 ―――

外国人と80歳をこえた従業員

 

― 前回の記事で紹介してくれた男性以外には、どのような従業員がいましたか?

 

digital-reform-49_03_0210年程働いてくれた男は熱心に仕事に取り組んでくれていたから、信頼していました。賃金も上げて、働きぶりを評価していただけに残念です。雇った後、教育係として1人のベテランを臨時に雇いました。しばらく、その教育係が教えていたのです。物覚えが悪くとも、懸命に仕事をしているならば教えていきたいから。自分が有名店で師匠に教わったように。

彼が辞めた後すぐに、来日3年目のバングラデシュ人の男が「働かせてほしい」と飛び込みできました。日本語のやりとりがきちんとできるし、まじめな性格だから好感を持ち、雇いました。今は週5日、夕方5時から夜の9~深夜の12時までくらいの勤務で、補助的なことをしてもらっています。宗教の影響があり、豚を食べないようです。豚などが入っているスープの味見ができない。ですので、調理はさせていません。味見ができないと、おいしいかどうかがわからんでしょう。自分がおいしいと本気で思えるものしか、お客さんには出さんようにしていますから。

それぞれの人に合うような働き方をさせたい。彼は10年勤務した男と比べると、出勤時間を守れない日が多少多い。もともと、日本人の時間を守る意識とはやや異なる国に生まれ育ったようだから、仕方がないのかもしれませんね。僕は、それをとがめません。1度も叱ったり、怒鳴ったことはありません。真剣にがんばっていますから。

10年務めた男への接し方や教え方と、バングラデシュの男へのそれらは違います。それぞれの違いを心得ていないと、教えることはできんでしょう。宗教や文化が異なると、雇う側はある程度はそれに合わせる必要があるように思います。

彼はユーモアのセンスもあり、頭がいいですよ。「今、何をしている?」と厨房で聞くと、「息をしています」と答えていました(笑)。愛きょうがあるから、お客さんからも人気があります。2人で食事会もします。僕のためにバングラデシュの料理をつくってくれた時があり、うれしかったですね。

今では、ギョーザを焼くこともできるようになりました。焼き方を教えると、飲み込みがいい。「少々時間をかけても、ふっくらとするように焼くほうがいい」と言うと、忠実にその通りにします。「仮にこがしてしまったら、きちんと自分に言うように」とも伝えています。それも心得て、お客さんに出す前に僕に言います。素直なのです。こげたギョーザをお客さんに出すと、クレームになる場合があるのです。ここのお客さんはストレートに言うから、それはありがたいのですが、いつも気をつけています。

母は週6日、ランチの時には従業員の立場で働きますが、やはり、親子なんですね。店内でも口論になるし、一緒に食事にも行くし、家族や家のこと、仕事のことなどいろいろと話します。80歳をこえて、ますます頑固になっていますが、ランチの時はずいぶんと助かっています。

 

 

 

02 ―――

水頭症と診断され、後継者について考える 

 

体調がよくない、と聞きました。

 

はい、今(2025年2月)の体調はよくはありません。以前から、体の具合が悪かったのです。プロボクシングを2000年に引退して、その後、キックボクシングや空手をしてきました。空手では顔や頭を殴り合うことはしませんが、数年前から立っているとふらっとする機会が増えてきたのです。

特に2022年頃からは頭が痛く、フラフラするようになりました。まっすぐ歩いたり、自転車に乗るのが難しい日があります。厨房に立ったままでいられなくなったのです。おかしいとは感じていたのですが、ますますひどくなるから病院に行くと脳腫瘍と診断されました。

ショックは、ありませんでした。エックス旧ツイッターに「脳に腫瘍がありました。どうしゅよう・・・」(2023年4月29日)と書いたら、「ハートがタフ過ぎです(笑)」などと返信がありました。落ち込んで治るならば、なんぼでも落ち込みますよ。開き直るしかないでしょう。むしろ、見つかってよかった、とりあえずは生きていてよかったと思うようにしました。

その後も症状がますます悪くなるからその病院から紹介状をもらい、2023年に脳外科病院に行ったところ、水頭症と診断されました。脳にたまった髄液を抜く管を体に埋めこむ手術をしました。これだと、空手もできない。医師から、「もうやめたほうがいい」とも言われました。格闘技ができなくなるほうが、ショックです。

ボクシングから格闘技への転向は、はじめは慣れないから戸惑うことがありました。ボクシングは足技を使わないけど、格闘技では使います。パンチはよけられるけど、ハイキックをよけられずに顔に当たる場合もあります。年間で3~5試合で、1試合で数万円のファイトマネーの時もありました。ラーメン店の経営のほうが儲かるけど、勝った試合のあのうれしさが忘れられない。

僕が、漫画「北斗の拳」を真似して、「南斗水頭症拳の伝承者になった」とお客さんたちに言ったら、「メンタル強い!」と言われました(笑)。怖いけど今は、あえて落ち込まないようにしています。水頭症の診断を受けたサッカー元日本代表FWの工藤壮人選手が32歳で亡くなったことには、驚きましたが。

 

 

 

 

03 ―――

今後の人生をどう生きぬくか 

 

人生観が変わってきたようですね。 

 

はい、そうです。なぜ、水頭症になったのかは医師もわからないようでした。それを僕が考えても、仕方がないでしょう。今後の人生をどう生きぬくかとあらためて考えるようになり、後継者がほしいと思うようになりました。離婚後、別れて暮らす高校生の娘か、警察官である弟の息子(甥)に継いでもらえたらいいな…。僕は2号店、3号店とチェーン展開する考えはありません。僕の代わりの人がいたら、それができるかもしれませんが。

大切な人をさらに大事に思えるようにもなりました。これまでに多くの人にボクシングやラーメンのつくり方を教えてもらいましたが、ボクシングをしていた頃では日本ジュニア・ライト級(現スーパーフェザー級)チャンピオンで現在、フィットネスインストラクターの鈴木敏和さんが、最も印象に残っています。

僕が、ボクシングの練習に遅刻をしたことがあります。教えてくださる鈴木先輩は、1時間半も約束の時間に遅れた自分を待っていてくれました。怒ってはいるようでしたが、激しく叱ることなく、丁寧に指導してくれました。あれから、25年が経ちます。今も「1時間半遅刻した」と冗談をまじえ、言われます(笑)。時々、この店に来てくださいます。先日、激励の電話もくれました。感謝しています。

ラーメン店の経営は気合いが必要です。気合いがあれば、黒いカラスも白くなります。そのように思うようにしています。気持ちがあれば、必ずできます。気持ちがないのは、絶対にダメ。僕は体が続く限り、気合を入れて経営をしていきたいと思っています。

 

 

 

 

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シリーズ:『あの人この人の「働き方」 』

 

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著者: JOB Scope編集部
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