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経験が浅い人、豊富な人・・・どちらを後継者にすべきか?/ 第2回 中小企業「あるある」事業継承(最終編)

作成者: JOB Scope編集部|2025/08/25

中小企業 2代目、3代目経営者の デジタル改革奮闘記

経験が浅い人、豊富な人・・・どちらを後継者にすべきか?

~ 中小企業「あるある」事業継承(最終編)~


2025/8/25

 

前回と今回は、これまでの本シリーズで取り上げた会社を事業継承という視点から再度見つめ直してみたい。それぞれの記事では取材相手である会社の社長などの言葉を中心に構成しているが、ここでは私たち編集部として感じ取っていることを紹介していく。

 

 

 

 

01 ―――

安定した経営を続けているのは経験値の高さ

 

前回では、ハイサワーなどを製造販売する博水社(目黒区)を紹介した。ここの事業継承の特徴は2代目である現在の田中社長が、父である2代目社長のもとで20数年、マンツーマン指導を経て就任したことだ。

 

中小企業では創業一族がオーナーとなるケースが多いが、管理職や役員の経験が十分ではないうちに社長に就任する2代目や3代目がいる。この場合は問題が生じる時もある。20年以上にわたり、父のもとで経験を積み、後を継いだ田中社長が安定した経営を続けているのは経験値の高さとも言えるだろう。

 

その意味では、次に挙げる白川プロ(渋谷区)も注目すべき事例と言えよう。主にNHKのテレビニュースやドキュメンタリー番組の映像編集・音響効果、各種映像コンテンツの制作業務を行っている。映像編集会社の中では、社員数や売上で最大手の1つと言える。

 

白川プロ(前編)

白川プロ(中編)

白川プロ(後編)

白川プロ(最終編)

 

白川社長は、20代から白川プロで編集マンとしての経験を20年以上積んできた。創業者である当時の社長は妻を亡くし、子どもがいなかった。優秀な社員である白川さんに養子になってほしいと申し出て、白川さんはそれを受け入れた。

 

創業者が病死した後、白川さんは管理職から役員となる。創業者が後継者として指名した役員が社長となり、後を継ぐ。10年程の後、白川さんが役員として支え、2020年に社長に就任した。満を持して登場したと言える。2025年現在まで安定した経営を続けている。次世代を見据え、社員の目線に立ち、働きやすい職場をつくろうとしてきた。

 

まず、着眼したいのが創業者の先見性だ。中小企業では後継者がいない時に外部の会社、たとえば金融機関や顧問税理士、人材派遣会社に依頼し、探すケースがある。その時点で会社を後継者に売却するケースも最近は少なくない。外から後継者を招いたがゆえに大きな混乱が生じ、優秀な役員や社員が次々と辞める場合もある。残念だが、混乱をもたらすことに自らの存在意義を感じているような後継者がいるのも事実だ。

 

こういう状況にならないように創業者はしたかったのかもしれない。当時、社員であった白川社長が信用できる後継者になりうると思い、養子にしたのではないだろうか。そうならばまさに慧眼であるし、創業者としての責任をまっとうしたと言える。小さな会社では後継者選びは、先代の1大事業なのだ。

 

もう1つ特筆すべきは、養子にしながらも安易な継承をしていないことだ。白川さんを管理職にはしても、すぐに役員にしない。次の後継者としては長年、白川プロに勤務し、実績のある役員を社長にした。この社長のもとで白川さんは役員として10年程、経験を積む。その後、2020年に社長になった。前述の博水社の田中社長と同じく、相当な場数を踏んで就任している。安定した経営をしている大きな理由は、このあたりにあるはずだ。

 

 

 

02 ―――

小さな会社の事業継承の否定しがたい一断面

 

中小企業の事業継承を取材していると、前回の記事で取り上げたように20代で創業者もしくは2代目である父が経営をする会社に入り、管理職や役員の経験がほとんどないまま、30歳前後で社長に就任するケースがある。この場合、社内に混乱が生じる可能性が高い。若き社長は、実務経験や経営者としての豊富な経験はとぼしい。役員や管理職と仕事に関する深い話し合いはまずできない、と関係者から聞く。

 

それでも社長は、指示や命令をしようとする。役員や管理職は、その意味がわからない。聞き返そうとするが、明確な回答はない。そこで「こういうことを指示しているのだろう」と想像しながら、部下たちに指示をする。その受け止め方が社長の求めているものとは大きく異なるケースがある。社長はやり直しを指示するが、その意味がつかめない。役員や管理職は、お手上げ状態となる。どうしていいのか、わからない。混乱に次ぐ混乱となり、全社規模で仕事がとどこおる。

 

こうなると危機感を感じた先代である父がまた、役員や管理職に指示、命令をする。会社に思い入れが強い創業者ならば、なおさら介入がエスカレートするかもしれない。役員や管理職たちはある時は現在の社長から、ある時は先代から指示を受ける。ワンマン・ツーボスとなり、混乱がますます激しくなる。役員をさしおいていきなり、部長や課長に指示をするケースもある。指揮命令系統は一段と錯綜し、ムリ、ムダ、ムラが蓄積される。意識の高い社員たちは嫌気がさし、辞めていく。職場は、シラケた空気となる。

 

本来は、先代と現在の社長が夜を徹してでも話し合うべきなのだろうが、それが難しいケースもある。父と息子、娘である場合は互いに知り尽くしているがゆえにあきらめもあり、あえて深く話し合わないこともあるようだ。家族間で株式の持ち合いをしているオーナー一族である以上、止むを得ない一面はあるのかもしれない。一概に問題視はできないのだろう。

 

だが、私たち編集部は役員や管理職からは指揮命令系統が混乱する中、むなしさやストレスが激しいと聞く。これは中小企業では、「あるある」の話と言える。小さな会社の事業継承の否定しがたい一断面なのだ。それでも可能な範囲で、指揮命令系統を整理し、先代と社長の役割分担や権限、責任を明確にはしたい。ここは、組織の生命線であるからだ。

 

 

 

03 ―――

後継者が番頭的な社員を退け、前線に出る

 

このような事業継承を下記の4本の記事で、たんぽぽ不動産(愛媛県喜多郡内子町)の松岡秀夫社長が語った。リアリティーのある内容であり、事業継承の難しさを浮き彫りにしている。ぜひ、ご覧いただきたい。

 

たんぽぽ不動産(前編)

たんぽぽ不動産(中編)

たんぽぽ不動産(後編)

たんぽぽ不動産(最終編)

 

前編)で松岡社長がこう語っている。これが、4本の記事のエッセンスと言える。

 

「創業者が病死した後、白川さんは管理職から役員となる。創業者が後継者として指名した役員が社長となり、後を継ぐ。10年程の後、白川さんが役員として支え、2020年に社長に就任した。満を持して登場したと言える。2025年現在まで安定した経営を続けている。次世代を見据え、社員の目線に立ち、働きやすい職場をつくろうとしてきた。

 

これもまた、難しい。創業者が前線から引くと後継者が番頭的な社員を退け、前線に出ようとします。責任感ともとれるし、自らの存在感を社内外に見せたいのかもしれませんね。しかし、得てして経験が浅く、実務能力が低いために仕切ることができない。こうなると、困った存在であり、厄介だなと思います」

 

後継者が自らの息子や娘である場合、かわいいと思うのは当然だろうが、経営ができる資質や力があるとは限らない場合がある。それを踏まえ、私心を押し殺し、実務能力の高い社員をいわば番頭のような存在として配置し、全社がとどこおりなく動くようにしていくのが好ましいのではないだろうか。だが、これも容易ではないようだ。必要以上に権限を与え、立場や発言力が強くなりすぎるのも問題になるとも関係者からは聞く。

 

次に挙げる専門商社のサンヨーシステム(川崎市)では、現在の社長は10年以上にわたり、創業者(故人)マンツーマンの指導を受けて就任した。特に経営理念について身をもって教え込んだ。私たちの取材時に社長は涙を流し、先代がいかに経営者として、人として優れていたかを語っていた。双方に血縁関係はない。創業者は社長が営業担当の社員である30代の頃から、後継者にふさわしいと判断したようだ。これもまた、慧眼と言えよう。後継者選びが上手くいくと、当面は経営が安定してくるのかもしれない。それだけに、実に難しい。

 

サンヨーシステム(前編)

サンヨーシステム(後編)

 

今回、取り上げた会社のほか、本シリーズでは事業継承を上手く行った会社が並ぶ。ぜひ、ご覧いただきたい。

 

(前編へ)

 

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